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幻想のかけら

オリジナル小説を書いています。現在、「魔法使いの息子」というタイトルで掲載中。

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魔法使いの息子:第21話「アプラウスの剣」

アルテとモーズが戻ってきたとき、
モーズは汗だくになっていた。

「なんで私が剣の練習をしなければならないのだ。」

「うん?
 なかなか筋は悪くなかったぞ。
 で、トレイ、どうするのだ?」

2人の視線がトレイに集まった。

「アプラウス様と契約します。
 父の疑念に関しては、忘れようと思います。」

モーズがうなずいた。

「よく決心なさいました。
 では、さっそく、と言いたいところですが、
 私はちょっと着替えますから、
 しばらく外で待っておいてください。」

アルテとトレイはモーズに部屋から追い出された。

「トレイ、忘れるといったな。
 
 余計なお世話かもしれんが、
 そう簡単に気持ちを切り替えられるかどうか、
 そこは、アプラウス様には問われると思うぞ。」

「まあな。ただ、それについては考えがある。」

「そうか。がんばれよ。」

「何も聞かないのか?」

「お前の運命だ。
 自分の信じたとおりにやるしかなかろうよ。
 私が口を出すところではない。
 
 反発心の話もしたが、
 私やエレデ殿も自分なりに答えを出して、
 アプラウス様との契約に挑んだ。
 
 これが正解、などというものなどないと私は思う。
 
 私にアドバイスできることなど、
 初めから何もないからな。」

「そうか。」


モーズが着替えを終えて、部屋から出てきたので、
3人は再び、儀式の間に向かった。


儀式の間についた時、時間はちょうど夕一刻になっていた。

3人は、先ほどと同じ位置につき、
モーズとアルテが、同じ口上を述べる。

再び、儀式の間に静寂が訪れ、
アプラウスの声が聞こえてきた。

「トレイ、疑念は晴れたのですか?」

「晴れませんでした。
 だからお願いがございます。
 
 アプラウス様のお力で、
 私の頭から、アプラウス様を疑う心を
 消去してくださいませんでしょうか?
 
 モーズのように、アプラウス様を100%心から信じるように、
 私の記憶と心を塗り替えてくださいますよう、お願い致します。」

隣にいるモーズとアルテは驚いていた。

トレイは、以前、アプラウスからの精神干渉を受けており、
その時には、気に入らない、と言っていたのを曲げてでも、
契約を成立させるために、全面的に自分を洗脳するよう、
アプラウスに頭を下げて依頼することにしたのだ。

ただ、もちろん、その心の動きをアプラウスは先読みしているので、
驚きもせずに、アプラウスはトレイに語りかけた。

「信者がそのように願うのを聞いたことは多々ありますが、
 信者でないものがそう願うのは、あまりないですね。
 
 その願いは、多くの信者にとっての願い。
 皆、信じられないことによる苦しみからの解放を願うのです。
 
 ただ、その葛藤こそが人を成長させるのです。
 だから、神族はその願いをかなえたことはありません。
 
 しかし、トレイ、あなたのその決意は契約者にふさわしいもの。
 
 疑念を抱えたまま、魔族と戦いなさい。
 それこそが、あなたの戦いです。
 
 唱えなさい、我への忠誠と契約の言葉を。」

「魔術師トレイは、アプラウス様に忠誠を誓います。
 契約者として、命と魂をアプラウス様に捧げることを、ここに誓います。」

「魔術師トレイよ、あなたに力を与えます。
 
 たった今より、あなたはアプラウスの剣。
 戦士アルテと同じく、魂も命も我に所属するもの。
 
 モーズの導きに従って戦いなさい、アプラウスの剣よ。
 
 これより、あなたが我の援助を拒絶しない限り、
 あなたの命がこのヘブンより消え去ることはない。
 
 死への恐れを拭い去って、
 死闘の向こうにある、聖戦にその心と魂を捧げなさい。」

トレイは、急激に自分の内側から力が溢れてくるのを感じた。
魔力だけではない何か、
生命力のようなものも同時にそそがれたようだった。


儀式の間の静寂が消え、夜の音が聞こえてきた。
モーズがトレイに声をかけた。

「トレイ様、ご気分はいかがですか。」

「魔力が段違いになった。
 サンスケールと戦ったとき以上だ。」

アルテがトレイを見て言った。

「トレイ、おまえは剣で心臓を刺されたくらいでは、
 死ななくなっている。不死とまではいかないが、
 アプラウス様が大幅な生命力の底上げをしてくれている。」

「そうなのか。確かに、生命力そのものも、
 すごく強くなっているような気がする。」

「魔族との戦いでは、無傷というわけにはいかない。
 少なからずダメージを受けていけば、
 その蓄積は、敗北を意味することになるが、
 アプラウス様の援助を受けることで、
 生命力が急速に回復するような体にもなっている。」

「親父は、この力を拒否したんだろうか。」

「さてな。ただ忘れるなよ、トレイ。
 アプラウス様が言っていたように、
 援助を拒絶すれば、力は失われる。」

「わかった。」


モーズが、トレイに声をかけた。

「トレイ様。
 契約はこれで終了でございます。
 
 3人で一緒に戦うのは、まだ、先の話となるかもしれませんが、
 よろしければ、今夜は決起会とでもいったらよいのか、
 お祝いをしませんか?」

「いや、明日から、正魔法使い昇格試験が始まるんだ。
 出発は朝早いから、今日中に帰らないといけないんだ。」

「では、トレイ様。
 お祝いは、正魔法使い昇格試験の合格後に、
 そちらのお祝いも兼ねて、いたしましょう。」

「まだ、受かるって決まってないぜ。」

アルテが意外そうな顔をして、トレイの方を見た。

「うん?
 自分の実力が、今どの程度のものになっているのか、
 全くわかっていないようだな。
 
 『アプラウスの剣』が受からないわけがないだろう。
 そこら辺の魔法使いより、よっぽど腕が立つはずだぞ。」

「やめてくれよ。
 調子に乗ったら失敗しそうだ。
 
 もちろん合格するつもりだけど、
 気を引き締めていく必要があるからな。」

「そうか、頑張れよ。」

「トレイ様なら、大丈夫ですよ。
 いいお知らせをお待ちしております。」

「2人とも、ありがとう。」


トレイは2人に別れを告げて、
急いで、アカデミー行きの馬車を確保しに、
足早に本部を後にした。



父エレデを殺害されてから19日後、
ヘヴン5653年 陰マイスレンディ第14日に、
トレイはアプラウスと契約を結んだ。

契約がうまくいったことは、トレイにとって、
幸先のいいスタートといえた。

しかし、トレイには不安もあった。
なぜなら、正魔法使い昇格試験までに、
勉強しておく必要のあることをアカデミーは教えてくれたが、
試験内容については、口外が禁止されているのか、
誰からも情報を得ることができなかったからだ。

ただ、1点だけ、昇格試験については、
難易度にかなりの変動がある、という噂は聞いていた。

実力のないものが合格し、
実力のあるものが落ちる、というケースもよくあったためだ。
えこひいきのようなものもあるという噂もあった。

アルテとモーズは、心配していないようだったが、
トレイにとっては、その試験内容の不透明性が一番心配だった。
もし、自分のときに試験の難易度が非常に高度のものに
なる可能性を否定できなかったのだ。


ただ、運の悪いことに、そのトレイの心配は的中することになる。
次の試験の難易度は過去最高ともいえるものになるのだが、
トレイはまだそのことを知らない。

さらに、運の悪いことが、もう1つあった。

正魔法使い昇格試験の開催地では、
神族の目も行き届かない程に、強力な魔法封じが施されているため、
アプラウスとの契約は、そこでは何の役にも立たないのだが、
これもまた、トレイは後に知ることとなる。



第1章「契約」完了。
第2章「孤島フィルズ」に続く。

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魔法使いの息子:第20話「トレイのジレンマ」

モーズは、2人を自室に招き入れ、暖かい飲み物と
軽くつまめる食べ物を提供した。

「アプラウス様は、礼儀を重視されますが、
 それ以上に、神族に対しての疑念や詮索に対しては
 とても厳しい見方をされます。
 
 トレイ様にとって、真実を見極めたいという思いは
 大切ですが、それをアプラウス様に向けるのは、
 あまり、賢明とはいえませんよ。」

「すいません。迷惑をかけてしまって。」

「アプラウス様との契約については、
 アプラウス様の援助を受ける代わりに、
 100%の自己開示が求められます。
 
 契約者が何かをするわけではありませんが、
 アプラウス様の目に、体の内側、心の内、
 そして、前世からの魂の記憶のすべてをさらすことになります。
 
 そして、契約が続く間、それは維持され、
 いつなんどきとも、アプラウス様がそうされることを
 拒否できない、ということに同意する必要があります。
 
 トレイ様はそれに耐えられますか?」

「同意しなくても、アプラウスは、
 好き勝手に、こちらの精神をのぞけるじゃないか。
 
 今更、そんなのはどうでもいいよ。」

「トレイ様。
 
 アプラウス様が問題にされているのは、
 その態度だと思いますよ。
 
 次は、私もかばえません。」

モーズは、トレイの態度にすこしイライラしていたようだったので、
アルテが口をはさんだ。

「トレイ、神族に対する反発心は、私もエレデ殿もあったのだが、
 契約はできたぞ。」

「アルテは今も反発心はあるの?」

「ないな。
 だいたい、逆らっても意味がない。」

「どうして?」

「私が命と魂をかけるのは、
 正義のためのみ。
 
 私は魔族との戦いで戦友を多く失ってきた。
 そして、その戦いの中で、人間だけで立ち向かうということの
 困難さを思い知らされた。
 
 そんな中、アプラウス様に声をかけていただき、
 魔族にも対抗できる力強い仲間を得ることができたのだ。
 
 だから、私はアプラウス様に忠誠を誓う。
 
 確かに、神族にはよくわからないところが多い。
 探究していくに従い、
 細かいところで目に付くところは確かにあるかもしれない。
 
 しかし、なんとなく気に入らないだとか、
 ひっかかるだとかは、
 私の信義に照らし合わせると、
 つまらない理由にしかならない。
 
 疑いながら剣を振ることは、私にはできない。
 だから、私はアプラウス様を信じる。
 そう決めると、剣は自由に振れるものさ。
 
 トレイ、お前はどうなんだ?
 
 自分を支えてくれる神を疑いながら、
 敵との戦いに集中できるのか?」

「なんとかなるさ。」

「うん?
 じゃあ、一人で戦うのだな。
 
 私はアプラウス様と契約したので、
 一人で戦うことを選択した場合、お前への助力はできない。
 
 まあ、それも一つの生き方だとは思うがな。」

トレイは黙った。

モーズの出してくれた飲み物をじっと見つめて、
どうするか考えた。

「さてと、モーズよ。
 夕一刻までには、少し間があるだろう。
 
 お前も戦いに行くのだから、
 たまには、少し体を鍛えたほうがいいだろう。
 
 来い。軽く調練してやる。」

「えええ!
 お前とか!嘘だろう!」

「つべこべ言わずについてこい。」

アルテがモーズを引きずって、部屋を出て行った。

トレイは、アルテが自分に一人の時間を
与えてくれたのだろうと推測した。


トレイは天井を見上げた。

自分は子供なのだろうか?

ただ、どうも、アプラウスを全面的に信じる気になれないのだ。
何かひっかかる。

しかし、アプラウスを信じて、
契約をしない限りは、自分の前の道が閉ざされるというのも、
トレイにはわかっていた。

アプラウスへの疑念。
それは、父をなぜ助けなかったのか、ということ。

そして、アプラウスからその理由は聞けそうにない。
疑念を持って、アプラウスに質問をすれば、
また、見捨てられるだけなのだ。

アルテは、つまらない理由、といった。

アルテにとっては、諸々の細かいところは、
アプラウスへの疑念といえるまでのものにならなくても、
自分にとって、この疑念は、
つまらない理由、のひとことで片づけることはできないものだった。

しかし、父の仇を討つならば、アプラウスの助力は必須で、
そのためには、その疑念に目をつぶらなければならない。

一時的に疑念をわきに置いておくしかないが、
そうだとしても、アプラウスはすべてを見通す。

契約のときに、トレイの心の中にある疑念は簡単に見抜かれ、
それについての問答を受けることになるだろう。
モーズが答えたような答えを、
自分も用意しておかなければ、
アプラウスは、資格があると認めてくれないだろう。

いずれにせよ、父の仇を打つためには、
疑念は捨てなければならない。


そんなことが頭のなかを延々とぐるぐる廻っていたが、
突如、トレイはある答えにたどり着いた。

その答えを口にしたとき、
アプラウスがどういう反応をするかは、トレイには全くわからなかったが、
拒否する理由はないように思えた。

トレイは目の前のお茶を一気に飲み干した、
再度、契約に向けての自分の決意を固めるように。

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魔法使いの息子:第19話「アプラウスとの問答」

偽者天使が姿を消した後、トレイは一つの疑問を口にした。

「神族の裏切り者ズーノってなんだ?」

モーズが答えて言った。

「その言葉通りでございます。
 
 ヘレニウス様を長とする神族の中には、
 ズーノという裏切り者がおられます。
 
 彼は、欲望の神、とされています。
 悪魔的な人の恨みすらかなえるともいわれており、
 どうも、人間の中にも、ズーノを
 密かに信仰しているものもいるようです。」

「魔族とは違うの?」

「魔族ではございません。
 
 ヘレニウス様がこの世界を作られた当初は、
 神族の一員だったようですが、
 いつからか、反逆するようになったようです。
 
 今のように、我々僧侶をたぶらかしに
 くることもあるようなのですよ。
 
 私は初めて見ましたが。」

「そうなんだ。」

「エレデ殿にもちょっかいをかけていたかもしれませんね。
 
 もしかしたら、
 エレデ殿がかの龍に殺された一件に関しても、
 絡んでいたかもしれませんよ。」

エレデの名を聞いて、アルテが反応した。

「考えが浅いのではないか、モーズ?
 
 確かに、エレデ殿があのサンスケールごときに、
 やすやすと殺された、というのには、
 私も違和感を感じていた。
 
 ズーノが絡んでいる、というのなら、
 ありえない話ではないが、
 何の証拠もなく、そういうことは、
 少なくとも、トレイの前で言うべきではないんじゃないか?」

「ちょっと待ってよアルテ。
 サンスケールごときって、オレ、一部始終を見ていたけど、
 父さんは、あの龍に一方的に押されていたよ。」

「だとしたらそれは、サンスケールが急に異常に強くなったか、
 エレデ殿が、何か罠にはめられて実力を発揮できなかったか、
 そのどちらかだな。
 
 トレイ。お前の父親は、超一流の魔法使いだった。
 順当に行けば、戦闘の結果、
 サンスケールに逃げられることはあったとしても、
 サンスケールに討たれる、などとということは絶対に無い。」

3人の間に、沈黙が訪れた。

トレイが口を開こうとしたが、なぜか何もいえなかった。
父親のことを思うと、胸が苦しくなった。

再び、トレイは、違和感を感じた。

さっきまで、儀式の間の外から聞こえていた、
かすかな雑音まで、一切聞こえなくなったのだ。


突然、声が聞こえた。

「久しぶりですね。トレイ。
 私の声を覚えていますか?」

「アプラウス・・・様?」

「この間は、機嫌を損ねていたようですね。
 あのときの出来事は、あまり口にするべきではないのですよ。
 頭のいいあなたなら、察していたと思っていたのですが。」

「ケリー先生にもかい?」

「私に不信感を抱いているようですね。
 それでは、なぜ、今日ここに来たのですか?」

「父親の敵を取るためさ。」

「それでは、あなたに資格はありません。
 帰りなさい。別の物を用立てます。」

トレイは一気に血の気が引いた。

こんなにもあっさりと見捨てられるとは思っていなかったのだ。

「アプラウス様。モーズでございます。
 少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。
 毎日祈りに励んでいるようですね、モーズ。」

「もったいないお言葉、ありがとうございます。」

「話というのは、何ですか?」

「ここにいるトレイですが、
 父親を助けられなかったという点で、
 アプラウス様のことを少し誤解しているようなのです。
 
 彼は、父親を殺され、心は深く傷ついており、
 固く閉ざされてもいます。
 青年らしくない素振りや、
 周囲を敵のように扱う物腰もそこからきています。
 それで、このような口聞きをしてしまっているのです。
 
 彼もまた、か弱い人間の一人です。
 どうか、お慈悲をいただけませんでしょうか?」

「モーズ。
 あなたはどう思っているのですか?」

「エレデ殿は自信家でした。
 
 詳しいいきさつはわかりかねますが、
 かの龍との闘いのときに、
 アプラウス様からの援助を彼は断ったのではないか、
 と私は考えております。
 
 そして、彼は傲慢にも、自力で魔族との戦いができると
 思い込んでいたのです。
 
 そこを神族の裏切り者のズーノにつけこまれ、
 何らかの罠にはめられたのではないかと考えています。
 
 アプラウス様は、その援助を求めるものに手を差し伸べられますが、
 それを拒むものの運命については、
 その拒みに見合ったものをお与えになると私は考えています。
 
 そこで何かを勝ち取るものもいれば、
 彼のように死を招き入れるものもいるのではないかと。
 
 だからこそ、我々か弱い存在である人間は、
 すべからく、神族に全てをゆだねなくてはならない。
 
 しかし、彼は傲慢で、それを拒んだ。
 
 私はそういうことではないか、と思っております。」

「3人で一度、話し合った方が良いでしょうね。
 今日の夕一刻に、もう一度ここに来なさい。」

「ありがとうございます。アプラウス様。」


突如、周囲の雑踏が聞こえるようになった。

モーズがトレイに声をかけた。

「まあまあ、何か暖かいものでもいかがですか、トレイ様。
 よろしければ、ご用意させていただきますよ。」

「ありがとう。」

モーズとアルテが儀式の間から外に出て行こうとしたので、
トレイは、とぼとぼと2人についていった。

トレイはまるで、余計なことを言って、
前の2人に迷惑をかけたような、
申し訳ない気分で心が一杯になった。

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魔法使いの息子:第18話「偽者」

トレイには、天使がオーラを増したように見えた。

「なに・・・・?
 我を愚弄するのか、人間よ。
 
 わかっておるのだろうな?
 天使に刃を向けるというのがどういうことか。」

モーズが答えて言った。

「私は、長年アプラウス様を信仰している
 僧侶でございます。
 
 生まれたときから、この教会に預けられ、
 その力を、何度もこの身に受けておりますし、
 アプラウス様から使わされた天使様とも
 お会いしたことがございます。
 
 言葉でのやりとりだけではなく、
 体で覚えている感覚がございますので、
 質問をする前から、これは、嘘を申されているのではないか、
 と感じておりました。
 
 申し訳ございませんが、
 質問をさせていただいて、
 確信いたしました。
 
 貴方様は、偽者でございます。
 フィルツ、というのも、
 本当の名前ではないのではございませんか?」

天使の手からモーズに向けて光の矢が放たれた。

トレイの目には矢がモーズの胸部を直撃したように見えたが、
何も起こらなかった。

天使がいぶかしむ目でモーズを見た。

「何をした?」

「私は、何もしておりませぬ。
 
 大変失礼かとは思いますが、
 お見苦しいのではないでしょうか?
 
 私を攻撃したのが、偽者であることの
 何よりの証でございます。
 
 アプラウス様から使わされた天使様であれば、
 私を厳しく叱責されることはあれど、
 攻撃を加えるなどということは、
 絶対にありえません。」

再び、天使が手をモーズに向けたが、今度は、光の矢は出なかった。
その代わり、天使の手が消滅した。

「ぐっ!貴様の方か・・・・」

天使がアルテの方を見たので、
アルテが天使の方を見てこう言った。

「そこの偽者よ。今回は見逃してやる。
 無益な殺傷は、私は好まないのでな。
 
 人間を見下すのはお前の勝手だが、
 今のが防げなかったのであれば、
 私に勝負を挑むのはやめておいたほうがいい。
 
 たぶん、相手にならないからな。」

「斬ったから勝ちだと思っているのか、人間よ!
 我は肉体には縛られない存在なのだぞ。」

「私の剣は、特別製でな。
 
 肉体を斬ったら、イデア界の魂にも多少なりとも
 ダメージを与えることができる。
 連続で何度も斬れば、魂を消滅させることもできる。
 
 うん?
 もしかして、お前、自分の魂がダメージを受けたことに
 気付いていないのか?」

「・・・・」

「だめだ。
 そんなんじゃ、全く相手にならない。
 弱すぎる。
 
 早く天国にでも帰れ。」

アルテは天使にも容赦なかった。
天使に本当に肉体があったら、歯軋りでも聞こえてきそうだった。

偽者天使の姿が消えた。

それと同時に、突然、暗黒が3人に襲い掛かって・・・・
こなかった。

その代わり、風が吹いた。

アルテが剣を連続で何度も振り回したようだったが、
トレイには良く見えなかったので、
おそるおそる、トレイはアルテに聞いてみた。

「え~と、アルテさん。
 何をしたのでしょうか?」

「斬った。」

「何を?」

「偽者天使の、のろい魔法。」

「呪いの魔法?」

「呪いの魔法だが、遅すぎるので、のろい魔法。」

「魔法って斬れるんだ。」

「あのぐらいなら斬れる。」

トレイは心に誓った。
この女剣士には、今後、絶対に逆らわないようにしようと。

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魔法使いの息子:第17話「儀式の間」

儀式の間は、椅子も机もない部屋だった。
広さは人が20~30人入れる程度、
なんの飾りも装飾もなかった。
しかし、そこには人を圧倒させるような、
重たさのようなものがあった。

モーズは、儀式の間の中央にトレイを立たせた。

「契約は、アプラウス様の指示に従って行います。
 トレイ様は、アプラウス様がこられるまで、
 目を閉じてお待ちください。」

「わかった。」

トレイの左側にモーズ、右側にアルテが立った。
モーズが、朗読を始めた。

「魔を打ち払い、新しく時を刻みしヘレニウス。
 かの女神より人を統べるものとして選ばれしアプラウス。
 
 その名は、神の世に、人の世に、地下の世に、深く刻まれる。
 みながその名を畏れ、その御身に肉体と魂を捧げる。
 
 その目はすべてを見抜き、その知恵は未来を照らす。
 預言と知恵と魔法の神、アプラウスよ、お導きください。
 
 神の世に、勝利と栄光をもらたらす神よ、
 人の世に、知恵と平安を分け与えてください。」

アルテがモーズに続いた。

「我が剣を捧げし神よ。
 誓いに従い、魂と肉体を、御身の剣として役立てたまえ。
 
 預言と知恵と魔法の神、アプラウスよ、お導きください。
 
 神の世に、勝利と栄光をもらたらす神よ、
 人の世に、知恵と平安を分け与えてください。」

アルテの言葉の後、しばらく静寂が訪れたが、
トレイは、違和感を感じた。

さっきまで、儀式の間の外から聞こえていた、
かすかな雑音まで、一切聞こえなくなったのだ。


「3人とも目を開けよ。」

トレイが目を開けると、そこに白い羽を背中に従え、
全身が光り輝く姿の天使が現れていた。

「我は、アプラウス様より使わされた、
 天使長フィルツと申すもの。
 
 宿命にもとづき、契約の儀式を行う。
 
 魔道師エレデの後を継ぐものよ。
 名を名乗り、アプラウス様への忠誠をここに誓え。」

トレイは、その美しい姿に見とれていた。
生まれて初めて見た天使。
その体から発せられる魔力も相当なものだった。


しかし、トレイが名乗ろうとすると、モーズが制した。

「失礼ですが、フィルツ様。
 私は、そういったお話をアプラウス様から伺っておりません。
 
 いつもは、アプラウス様がお声がけをしてくれますし、
 まして、契約の際に、天使が代理に姿を現す、
 ということは、聞いたことがございません。」

「疑うというのか?人間よ。」

「いえいえ、お待ちください天使長様。
 
 実は、アプラウス様から、契約の際に1つ注意点を
 きつく言われております。
 
 神族の裏切り者のズーノと、その手のものに注意せよと。
 
 そして、その見分け方を教わっており、
 自分自身が声をかけない場合は、
 必ず、その見分け方を用いて確認を行うよう、
 きつくきつく指導を受けているのでございます。」

「・・・・・」

「それは、ごくごく簡単な見分け方でございます。
 
 フィルツ様が、忠誠を誓っておられる神の名と、
 その神への忠誠の言葉をここで口にしてくださいませ。」

「そんなものは、わかりきったことではないか。
 なぜ、わざわざそれを聞く。」

「申し訳ございません。
 私も失礼とは思っているのですが、
 なにぶん、アプラウス様からきつく言われておりますので。
 
 お願い致します。」

「天使長フィルツが、忠誠を誓うのはアプラウス様だ。」

「申し訳ございません。
 天使長フィルツ、ではなく、主語を私、として
 口にしていただくようお願い致します。
 
 このような感じです、
 私はアプラウス様に全存在と魂を捧げることを、
 再びここに誓う、と。
 
 お願い致します。」

アルテが諌めるようにモーズの方を見たが、
モーズはアルテの視線を全く意に介せず、
天使のほうをただ静かに見ていた。

「無意味なことだ!
 さっきも言ったであろう!」

「言えないのですか?」

「無意味だといったであろう!」

「アルテ」

モーズがアルテのほうを見て、はっきりと口にした。

「偽者だ。」

「そうか、わかった。」

アルテが剣を抜いて構えた。

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第2章「孤島フィルズ」 (15)
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