幻想のかけら

オリジナル小説を書いています。現在、「魔法使いの息子」というタイトルで掲載中。

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魔法使いの息子:第19話「アプラウスとの問答」

偽者天使が姿を消した後、トレイは一つの疑問を口にした。

「神族の裏切り者ズーノってなんだ?」

モーズが答えて言った。

「その言葉通りでございます。
 
 ヘレニウス様を長とする神族の中には、
 ズーノという裏切り者がおられます。
 
 彼は、欲望の神、とされています。
 悪魔的な人の恨みすらかなえるともいわれており、
 どうも、人間の中にも、ズーノを
 密かに信仰しているものもいるようです。」

「魔族とは違うの?」

「魔族ではございません。
 
 ヘレニウス様がこの世界を作られた当初は、
 神族の一員だったようですが、
 いつからか、反逆するようになったようです。
 
 今のように、我々僧侶をたぶらかしに
 くることもあるようなのですよ。
 
 私は初めて見ましたが。」

「そうなんだ。」

「エレデ殿にもちょっかいをかけていたかもしれませんね。
 
 もしかしたら、
 エレデ殿がかの龍に殺された一件に関しても、
 絡んでいたかもしれませんよ。」

エレデの名を聞いて、アルテが反応した。

「考えが浅いのではないか、モーズ?
 
 確かに、エレデ殿があのサンスケールごときに、
 やすやすと殺された、というのには、
 私も違和感を感じていた。
 
 ズーノが絡んでいる、というのなら、
 ありえない話ではないが、
 何の証拠もなく、そういうことは、
 少なくとも、トレイの前で言うべきではないんじゃないか?」

「ちょっと待ってよアルテ。
 サンスケールごときって、オレ、一部始終を見ていたけど、
 父さんは、あの龍に一方的に押されていたよ。」

「だとしたらそれは、サンスケールが急に異常に強くなったか、
 エレデ殿が、何か罠にはめられて実力を発揮できなかったか、
 そのどちらかだな。
 
 トレイ。お前の父親は、超一流の魔法使いだった。
 順当に行けば、戦闘の結果、
 サンスケールに逃げられることはあったとしても、
 サンスケールに討たれる、などとということは絶対に無い。」

3人の間に、沈黙が訪れた。

トレイが口を開こうとしたが、なぜか何もいえなかった。
父親のことを思うと、胸が苦しくなった。

再び、トレイは、違和感を感じた。

さっきまで、儀式の間の外から聞こえていた、
かすかな雑音まで、一切聞こえなくなったのだ。


突然、声が聞こえた。

「久しぶりですね。トレイ。
 私の声を覚えていますか?」

「アプラウス・・・様?」

「この間は、機嫌を損ねていたようですね。
 あのときの出来事は、あまり口にするべきではないのですよ。
 頭のいいあなたなら、察していたと思っていたのですが。」

「ケリー先生にもかい?」

「私に不信感を抱いているようですね。
 それでは、なぜ、今日ここに来たのですか?」

「父親の敵を取るためさ。」

「それでは、あなたに資格はありません。
 帰りなさい。別の物を用立てます。」

トレイは一気に血の気が引いた。

こんなにもあっさりと見捨てられるとは思っていなかったのだ。

「アプラウス様。モーズでございます。
 少しお話させていただいてもよろしいでしょうか?」

「いいですよ。
 毎日祈りに励んでいるようですね、モーズ。」

「もったいないお言葉、ありがとうございます。」

「話というのは、何ですか?」

「ここにいるトレイですが、
 父親を助けられなかったという点で、
 アプラウス様のことを少し誤解しているようなのです。
 
 彼は、父親を殺され、心は深く傷ついており、
 固く閉ざされてもいます。
 青年らしくない素振りや、
 周囲を敵のように扱う物腰もそこからきています。
 それで、このような口聞きをしてしまっているのです。
 
 彼もまた、か弱い人間の一人です。
 どうか、お慈悲をいただけませんでしょうか?」

「モーズ。
 あなたはどう思っているのですか?」

「エレデ殿は自信家でした。
 
 詳しいいきさつはわかりかねますが、
 かの龍との闘いのときに、
 アプラウス様からの援助を彼は断ったのではないか、
 と私は考えております。
 
 そして、彼は傲慢にも、自力で魔族との戦いができると
 思い込んでいたのです。
 
 そこを神族の裏切り者のズーノにつけこまれ、
 何らかの罠にはめられたのではないかと考えています。
 
 アプラウス様は、その援助を求めるものに手を差し伸べられますが、
 それを拒むものの運命については、
 その拒みに見合ったものをお与えになると私は考えています。
 
 そこで何かを勝ち取るものもいれば、
 彼のように死を招き入れるものもいるのではないかと。
 
 だからこそ、我々か弱い存在である人間は、
 すべからく、神族に全てをゆだねなくてはならない。
 
 しかし、彼は傲慢で、それを拒んだ。
 
 私はそういうことではないか、と思っております。」

「3人で一度、話し合った方が良いでしょうね。
 今日の夕一刻に、もう一度ここに来なさい。」

「ありがとうございます。アプラウス様。」


突如、周囲の雑踏が聞こえるようになった。

モーズがトレイに声をかけた。

「まあまあ、何か暖かいものでもいかがですか、トレイ様。
 よろしければ、ご用意させていただきますよ。」

「ありがとう。」

モーズとアルテが儀式の間から外に出て行こうとしたので、
トレイは、とぼとぼと2人についていった。

トレイはまるで、余計なことを言って、
前の2人に迷惑をかけたような、
申し訳ない気分で心が一杯になった。

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魔法使いの息子:第18話「偽者」

トレイには、天使がオーラを増したように見えた。

「なに・・・・?
 我を愚弄するのか、人間よ。
 
 わかっておるのだろうな?
 天使に刃を向けるというのがどういうことか。」

モーズが答えて言った。

「私は、長年アプラウス様を信仰している
 僧侶でございます。
 
 生まれたときから、この教会に預けられ、
 その力を、何度もこの身に受けておりますし、
 アプラウス様から使わされた天使様とも
 お会いしたことがございます。
 
 言葉でのやりとりだけではなく、
 体で覚えている感覚がございますので、
 質問をする前から、これは、嘘を申されているのではないか、
 と感じておりました。
 
 申し訳ございませんが、
 質問をさせていただいて、
 確信いたしました。
 
 貴方様は、偽者でございます。
 フィルツ、というのも、
 本当の名前ではないのではございませんか?」

天使の手からモーズに向けて光の矢が放たれた。

トレイの目には矢がモーズの胸部を直撃したように見えたが、
何も起こらなかった。

天使がいぶかしむ目でモーズを見た。

「何をした?」

「私は、何もしておりませぬ。
 
 大変失礼かとは思いますが、
 お見苦しいのではないでしょうか?
 
 私を攻撃したのが、偽者であることの
 何よりの証でございます。
 
 アプラウス様から使わされた天使様であれば、
 私を厳しく叱責されることはあれど、
 攻撃を加えるなどということは、
 絶対にありえません。」

再び、天使が手をモーズに向けたが、今度は、光の矢は出なかった。
その代わり、天使の手が消滅した。

「ぐっ!貴様の方か・・・・」

天使がアルテの方を見たので、
アルテが天使の方を見てこう言った。

「そこの偽者よ。今回は見逃してやる。
 無益な殺傷は、私は好まないのでな。
 
 人間を見下すのはお前の勝手だが、
 今のが防げなかったのであれば、
 私に勝負を挑むのはやめておいたほうがいい。
 
 たぶん、相手にならないからな。」

「斬ったから勝ちだと思っているのか、人間よ!
 我は肉体には縛られない存在なのだぞ。」

「私の剣は、特別製でな。
 
 肉体を斬ったら、イデア界の魂にも多少なりとも
 ダメージを与えることができる。
 連続で何度も斬れば、魂を消滅させることもできる。
 
 うん?
 もしかして、お前、自分の魂がダメージを受けたことに
 気付いていないのか?」

「・・・・」

「だめだ。
 そんなんじゃ、全く相手にならない。
 弱すぎる。
 
 早く天国にでも帰れ。」

アルテは天使にも容赦なかった。
天使に本当に肉体があったら、歯軋りでも聞こえてきそうだった。

偽者天使の姿が消えた。

それと同時に、突然、暗黒が3人に襲い掛かって・・・・
こなかった。

その代わり、風が吹いた。

アルテが剣を連続で何度も振り回したようだったが、
トレイには良く見えなかったので、
おそるおそる、トレイはアルテに聞いてみた。

「え~と、アルテさん。
 何をしたのでしょうか?」

「斬った。」

「何を?」

「偽者天使の、のろい魔法。」

「呪いの魔法?」

「呪いの魔法だが、遅すぎるので、のろい魔法。」

「魔法って斬れるんだ。」

「あのぐらいなら斬れる。」

トレイは心に誓った。
この女剣士には、今後、絶対に逆らわないようにしようと。

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魔法使いの息子:第17話「儀式の間」

儀式の間は、椅子も机もない部屋だった。
広さは人が20~30人入れる程度、
なんの飾りも装飾もなかった。
しかし、そこには人を圧倒させるような、
重たさのようなものがあった。

モーズは、儀式の間の中央にトレイを立たせた。

「契約は、アプラウス様の指示に従って行います。
 トレイ様は、アプラウス様がこられるまで、
 目を閉じてお待ちください。」

「わかった。」

トレイの左側にモーズ、右側にアルテが立った。
モーズが、朗読を始めた。

「魔を打ち払い、新しく時を刻みしヘレニウス。
 かの女神より人を統べるものとして選ばれしアプラウス。
 
 その名は、神の世に、人の世に、地下の世に、深く刻まれる。
 みながその名を畏れ、その御身に肉体と魂を捧げる。
 
 その目はすべてを見抜き、その知恵は未来を照らす。
 預言と知恵と魔法の神、アプラウスよ、お導きください。
 
 神の世に、勝利と栄光をもらたらす神よ、
 人の世に、知恵と平安を分け与えてください。」

アルテがモーズに続いた。

「我が剣を捧げし神よ。
 誓いに従い、魂と肉体を、御身の剣として役立てたまえ。
 
 預言と知恵と魔法の神、アプラウスよ、お導きください。
 
 神の世に、勝利と栄光をもらたらす神よ、
 人の世に、知恵と平安を分け与えてください。」

アルテの言葉の後、しばらく静寂が訪れたが、
トレイは、違和感を感じた。

さっきまで、儀式の間の外から聞こえていた、
かすかな雑音まで、一切聞こえなくなったのだ。


「3人とも目を開けよ。」

トレイが目を開けると、そこに白い羽を背中に従え、
全身が光り輝く姿の天使が現れていた。

「我は、アプラウス様より使わされた、
 天使長フィルツと申すもの。
 
 宿命にもとづき、契約の儀式を行う。
 
 魔道師エレデの後を継ぐものよ。
 名を名乗り、アプラウス様への忠誠をここに誓え。」

トレイは、その美しい姿に見とれていた。
生まれて初めて見た天使。
その体から発せられる魔力も相当なものだった。


しかし、トレイが名乗ろうとすると、モーズが制した。

「失礼ですが、フィルツ様。
 私は、そういったお話をアプラウス様から伺っておりません。
 
 いつもは、アプラウス様がお声がけをしてくれますし、
 まして、契約の際に、天使が代理に姿を現す、
 ということは、聞いたことがございません。」

「疑うというのか?人間よ。」

「いえいえ、お待ちください天使長様。
 
 実は、アプラウス様から、契約の際に1つ注意点を
 きつく言われております。
 
 神族の裏切り者のズーノと、その手のものに注意せよと。
 
 そして、その見分け方を教わっており、
 自分自身が声をかけない場合は、
 必ず、その見分け方を用いて確認を行うよう、
 きつくきつく指導を受けているのでございます。」

「・・・・・」

「それは、ごくごく簡単な見分け方でございます。
 
 フィルツ様が、忠誠を誓っておられる神の名と、
 その神への忠誠の言葉をここで口にしてくださいませ。」

「そんなものは、わかりきったことではないか。
 なぜ、わざわざそれを聞く。」

「申し訳ございません。
 私も失礼とは思っているのですが、
 なにぶん、アプラウス様からきつく言われておりますので。
 
 お願い致します。」

「天使長フィルツが、忠誠を誓うのはアプラウス様だ。」

「申し訳ございません。
 天使長フィルツ、ではなく、主語を私、として
 口にしていただくようお願い致します。
 
 このような感じです、
 私はアプラウス様に全存在と魂を捧げることを、
 再びここに誓う、と。
 
 お願い致します。」

アルテが諌めるようにモーズの方を見たが、
モーズはアルテの視線を全く意に介せず、
天使のほうをただ静かに見ていた。

「無意味なことだ!
 さっきも言ったであろう!」

「言えないのですか?」

「無意味だといったであろう!」

「アルテ」

モーズがアルテのほうを見て、はっきりと口にした。

「偽者だ。」

「そうか、わかった。」

アルテが剣を抜いて構えた。

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魔法使いの息子:第16話「正アプラウス教会本部」

翌日、トレイは馬車に乗って、宗教都市ウェイクを訪れた。
正アプラウス教会の本部は、ウェイクの中心部にある。
トレイはこの都市を訪れるのは初めてだったが、
教会本部は、都市で最も高い建物で、遠目にも目立つものだったので、
迷わずにたどりつくことが出来た。

正門の前には、モーズが立っていた。

「お待ちしておりました。トレイ様。
 馬車酔いなどはございませんでしたか?」

「ああ、酔わない体質なんだ。
 ところでアルテは今日はいないのか?」

「アルテは、どこかその辺で
 剣でも振り回しているのでございましょう。」

「適当な嘘をつくな。」

「うわっ、いたのか、お前。」

いつの間にか、モーズの隣にアルテが立っていたので、
トレイも驚いた。

「オレも全然気付かなかった。」

「すまないな、トレイ。
 足を忍ばせて歩くのが癖になっているのでな。
 驚かせるつもりはなかったのだが。」

「トレイとオレとで扱いがずいぶん違うのは何故だ?」

「適当な嘘か、素直な反応なのかの違いだ。」

「・・・・」

「うん?契約の儀式はどうした。」

「・・・・こっちだ。」

3人は、教会本部の中に入っていった。

モーズがちょっとすねていたので、
アルテは話しかけてなだめていたようだったが、
トレイはそのことは一切気にかけず、
ただ、教会内部のつくりに目を奪われていた。

といっても、目に見えるつくりではなく、
教会内部の、魔法封印の力と構造に目を奪われていた。

通常の人にとっては、ただ、澄み切った清らかな空気があり、
なんとなく神聖な雰囲気が漂っている、
というようにしか感じないものだが、
トレイは全く意味合いが異なるものを感じていた。

教会内部は、完全に魔法が封印されていたのだ。
どれだけ強力な魔法使いだったとしても、
一切魔法を発動させることはできないくらいに。

その代わりに、龍のブレスもかき消してしまうくらいの
強力な守護結界が張られていた。

魔法を完全封印しながらも、守護結果だけは成立させており、
ただ強力というだけではなく、相反する2つの力を融合させており、
非常に緻密で高度な魔法構造が形成されていた。

トレイは魔法使いの中でも、とりわけ感受能力が高かったため、
その圧倒的な封印の力を感知することができたのだが、
それは、トレイのこれまでの人生の中で、
体験したことのないものだった。

「これは、すごい・・・・・。」

「気付かれましたか、トレイ様。
 ここは、アプラウス様のお膝元でございます。
 この程度の封印は、当然でございます。」

「これ、誰がやってるの?」

「我ら僧侶が祈りを捧げ、アプラウス様がそれに応えて、
 このような神聖な場が形作られているのでございます。」

モーズはトレイの反応を見て、ご満悦となり、
いつもの調子に戻ってきた。

「さて、奥に契約の儀式を行うための部屋を用意してございます。
 そちらまでご案内いたします。」

モーズの先導により、トレイとアルテは、
儀式の間に向かって教会内部の奥へと入っていった。

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魔法使いの息子:第15話「契約を受ける理由」

正魔法使いの昇格試験の2日前、
学校帰りにトレイは、ケリーの家を訪れた。
ケリーの家は、アカデミーの近くにあり、
トレイが寝泊りしている寮からも、歩いて10分程度の場所だった。

ケリーの奥さんが入れてくれたお茶を飲みながら、
トレイは、どう話を切り出したらいいか、ちょっと迷いながら、
雑談をしていたら、ケリーの方からトレイに切り出してきた。

「トレイ君。
 今日ここに来たのは、契約、の話だよね?」

「うん。そうなんだ。
 ケリー先生は、反対だと思うんだけど、
 オレ、やっぱり、アプラウスの話を受けようと思う。」

「理由を聞いてもいいかな?」

「小さい頃、オレは、親父やボディーガードに守られて育った。
 オレをかばって死んでいった人達もたくさんいた。
 みんながみんな、親父やアルテみたいに超人的な強さを
 持っていたわけじゃなかった。
 
 オレは、もう、誰かがオレをかばって死んでいくのを
 見るのは嫌だ。
 
 サンスケールは必ずオレを殺しに来る。
 そして、オレがアプラウスの話を受けずに、
 アカデミーでぬくぬくとしている間にも、
 サンスケールは容赦しない。
 そして、誰かがオレを守るために犠牲になる。
 
 でも、もし、オレがアプラウスの話を受けたら、
 オレはもう守られる側じゃない。攻める側だ。
 アルテと一緒なら、あいつを倒せる。
 アプラウスの庇護も得ることができるだろう。
 
 ケリー先生がなんと言おうと、
 オレが命懸けなのは、契約を受けようと受けまいと
 変わらないんだよ。
 
 ただ、誰かに守られた方が、誰かが身代わりになってくれる分だけ、
 オレの生存率があげるだけだ。
 
 そこにオレは意味を感じない。」

「わかった。」

「え・・・。
 ケリー先生、反対しないの?」

「反対しない。
 正アプラウス教会の僧侶から全部聞いたよ。
 
 サンスケールの話、アプラウスが君に力を授けたという話、
 そして、あの女剣士の話、私なりに総合的に考えて、
 もう、アカデミーが君を守る、というレベルの話ではないと思った。
 
 悔しいが、アカデミーだけでは君を守りきれない。
 そういう決断をアカデミー総長も下した。
 
 それだけ、君の命を狙う力は強大だ。
 君を庇護できるのは、神々だけだろう。」

「・・・・」

ケリーは、正アプラウス教会側から聞いた、
細かい事情をトレイに説明した。

問題は、サンスケールだけではなかった。

アプラウスの契約の背後には、魔界の王を討つ、という話があったが、
それは、サンスケールのバックには魔界の王がおり、
サンスケール以外にも、トレイを殺すために、
その魔界の王からの刺客が多数やってくる、
ということを意味していた。

アカデミー総長はトレイの庇護をアカデミーだけで行うのは、
困難と判断し、全面的に正教会側の庇護を受ける決断を行い、
ケリーもそれに同意せざるを得なかった。

事情を説明している間、ケリーの手は小刻みに震えていた。
感情的にならないよう自分を必死で抑えながら話しているのが、
痛々しいほど、トレイにも伝わってきた。

「ケリー先生。契約の話を受けたとしても、
 今のオレじゃ戦力にもならないと思う。
 
 だから、まずは、正魔法使いの昇格試験に受からないと
 いけないと思ってるんだ。
 
 契約したとしても、いきなり闘いの場に引っ張り出される、
 なんてことはないと思っているよ。」

「神族は、人に魔力を与えることができる。
 
 人が魔術の技や知識を習得するのには時間がかかるし、
 それは神族にもどうしようもないが、
 ただ単純に魔力を与えて、パワーアップさせることなら可能なんだ。
 
 だから、アプラウス様がトレイ君に急激に魔力を与えて、
 闘いの場に引っ張り出すことはあり得ると思うよ。
 
 トレイ君は、魔術の技と知識に関しては、
 君自身の才覚だけでなく、エレデ殿からの英才教育もあって、
 今の時点でもかなりの力量を持っていると私は思っている。
 アカデミーでの成績もトップクラスだ。
 
 現時点での君の弱点は、実際のところ、魔力不足だけ、
 と言っても過言ではと思うよ。
 
 その君が、アプラウス様から強大な魔力を注ぎ込まれたとしたら、
 アプラウス様にとって、即戦力、となり得るのではないか、
 と私は考えている。
 
 実際、サンスケールとの闘いの場では、
 そうだったんじゃないかな?」

「正教会からは、何て聞いてるの?」

「アプラウス様が、トレイ君に一時的に魔力を与えて、
 トレイ君が、サンスケールを撃退した、と聞いてるよ。」

「だったとしても、それはオレの実力じゃないよ。
 アプラウス様がやったことだ。オレは知らない。」

「そう・・・・か・・・・。」

ただ、この瞬間、自分の言い回しに、
トレイはとても違和感を感じた。
ケリーは何も気付かなかったが。

トレイは、ケリーに事の顛末を隠す必要など全くないのに、
あえて、自分からは何も言わないような言い回しをしたのだ。

「わかった。トレイ君。
 これ以上は、このことについては、私からは聞かない。
 
 さて、トレイ君は正魔法使いの昇格試験を受ける前に、
 契約を済ませておきたいだろう?
 
 正アプラウス教会側には、今日中に私から伝言しておくよ。
 明日の昼過ぎにでも、
 正アプラウス教会の本部に顔を出すといい。
 
 それまでには、契約に必要な準備は、
 向こう側で全てできているだろうから、
 君自身は身一つで行って問題ないと思う。」

「わかりました。」

その後、トレイは出されたお茶を飲み干した後、
お休みをケリー夫妻に告げて、
早々にケリーの家から引き上げることにしたが、
帰りの道中、ふと、トレイは先ほどの違和感の正体に気付いた。

「なんでも出来るんだね。
 でも、そういうのは好きじゃないな、オレは。」

トレイはそうつぶやいた。
相手に話しかけるかのように。

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第2章「孤島フィルズ」 (15)
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