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幻想のかけら

オリジナル小説を書いています。現在、「魔法使いの息子」というタイトルで掲載中。

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魔法使いの息子:第21話「アプラウスの剣」

アルテとモーズが戻ってきたとき、
モーズは汗だくになっていた。

「なんで私が剣の練習をしなければならないのだ。」

「うん?
 なかなか筋は悪くなかったぞ。
 で、トレイ、どうするのだ?」

2人の視線がトレイに集まった。

「アプラウス様と契約します。
 父の疑念に関しては、忘れようと思います。」

モーズがうなずいた。

「よく決心なさいました。
 では、さっそく、と言いたいところですが、
 私はちょっと着替えますから、
 しばらく外で待っておいてください。」

アルテとトレイはモーズに部屋から追い出された。

「トレイ、忘れるといったな。
 
 余計なお世話かもしれんが、
 そう簡単に気持ちを切り替えられるかどうか、
 そこは、アプラウス様には問われると思うぞ。」

「まあな。ただ、それについては考えがある。」

「そうか。がんばれよ。」

「何も聞かないのか?」

「お前の運命だ。
 自分の信じたとおりにやるしかなかろうよ。
 私が口を出すところではない。
 
 反発心の話もしたが、
 私やエレデ殿も自分なりに答えを出して、
 アプラウス様との契約に挑んだ。
 
 これが正解、などというものなどないと私は思う。
 
 私にアドバイスできることなど、
 初めから何もないからな。」

「そうか。」


モーズが着替えを終えて、部屋から出てきたので、
3人は再び、儀式の間に向かった。


儀式の間についた時、時間はちょうど夕一刻になっていた。

3人は、先ほどと同じ位置につき、
モーズとアルテが、同じ口上を述べる。

再び、儀式の間に静寂が訪れ、
アプラウスの声が聞こえてきた。

「トレイ、疑念は晴れたのですか?」

「晴れませんでした。
 だからお願いがございます。
 
 アプラウス様のお力で、
 私の頭から、アプラウス様を疑う心を
 消去してくださいませんでしょうか?
 
 モーズのように、アプラウス様を100%心から信じるように、
 私の記憶と心を塗り替えてくださいますよう、お願い致します。」

隣にいるモーズとアルテは驚いていた。

トレイは、以前、アプラウスからの精神干渉を受けており、
その時には、気に入らない、と言っていたのを曲げてでも、
契約を成立させるために、全面的に自分を洗脳するよう、
アプラウスに頭を下げて依頼することにしたのだ。

ただ、もちろん、その心の動きをアプラウスは先読みしているので、
驚きもせずに、アプラウスはトレイに語りかけた。

「信者がそのように願うのを聞いたことは多々ありますが、
 信者でないものがそう願うのは、あまりないですね。
 
 その願いは、多くの信者にとっての願い。
 皆、信じられないことによる苦しみからの解放を願うのです。
 
 ただ、その葛藤こそが人を成長させるのです。
 だから、神族はその願いをかなえたことはありません。
 
 しかし、トレイ、あなたのその決意は契約者にふさわしいもの。
 
 疑念を抱えたまま、魔族と戦いなさい。
 それこそが、あなたの戦いです。
 
 唱えなさい、我への忠誠と契約の言葉を。」

「魔術師トレイは、アプラウス様に忠誠を誓います。
 契約者として、命と魂をアプラウス様に捧げることを、ここに誓います。」

「魔術師トレイよ、あなたに力を与えます。
 
 たった今より、あなたはアプラウスの剣。
 戦士アルテと同じく、魂も命も我に所属するもの。
 
 モーズの導きに従って戦いなさい、アプラウスの剣よ。
 
 これより、あなたが我の援助を拒絶しない限り、
 あなたの命がこのヘブンより消え去ることはない。
 
 死への恐れを拭い去って、
 死闘の向こうにある、聖戦にその心と魂を捧げなさい。」

トレイは、急激に自分の内側から力が溢れてくるのを感じた。
魔力だけではない何か、
生命力のようなものも同時にそそがれたようだった。


儀式の間の静寂が消え、夜の音が聞こえてきた。
モーズがトレイに声をかけた。

「トレイ様、ご気分はいかがですか。」

「魔力が段違いになった。
 サンスケールと戦ったとき以上だ。」

アルテがトレイを見て言った。

「トレイ、おまえは剣で心臓を刺されたくらいでは、
 死ななくなっている。不死とまではいかないが、
 アプラウス様が大幅な生命力の底上げをしてくれている。」

「そうなのか。確かに、生命力そのものも、
 すごく強くなっているような気がする。」

「魔族との戦いでは、無傷というわけにはいかない。
 少なからずダメージを受けていけば、
 その蓄積は、敗北を意味することになるが、
 アプラウス様の援助を受けることで、
 生命力が急速に回復するような体にもなっている。」

「親父は、この力を拒否したんだろうか。」

「さてな。ただ忘れるなよ、トレイ。
 アプラウス様が言っていたように、
 援助を拒絶すれば、力は失われる。」

「わかった。」


モーズが、トレイに声をかけた。

「トレイ様。
 契約はこれで終了でございます。
 
 3人で一緒に戦うのは、まだ、先の話となるかもしれませんが、
 よろしければ、今夜は決起会とでもいったらよいのか、
 お祝いをしませんか?」

「いや、明日から、正魔法使い昇格試験が始まるんだ。
 出発は朝早いから、今日中に帰らないといけないんだ。」

「では、トレイ様。
 お祝いは、正魔法使い昇格試験の合格後に、
 そちらのお祝いも兼ねて、いたしましょう。」

「まだ、受かるって決まってないぜ。」

アルテが意外そうな顔をして、トレイの方を見た。

「うん?
 自分の実力が、今どの程度のものになっているのか、
 全くわかっていないようだな。
 
 『アプラウスの剣』が受からないわけがないだろう。
 そこら辺の魔法使いより、よっぽど腕が立つはずだぞ。」

「やめてくれよ。
 調子に乗ったら失敗しそうだ。
 
 もちろん合格するつもりだけど、
 気を引き締めていく必要があるからな。」

「そうか、頑張れよ。」

「トレイ様なら、大丈夫ですよ。
 いいお知らせをお待ちしております。」

「2人とも、ありがとう。」


トレイは2人に別れを告げて、
急いで、アカデミー行きの馬車を確保しに、
足早に本部を後にした。



父エレデを殺害されてから19日後、
ヘヴン5653年 陰マイスレンディ第14日に、
トレイはアプラウスと契約を結んだ。

契約がうまくいったことは、トレイにとって、
幸先のいいスタートといえた。

しかし、トレイには不安もあった。
なぜなら、正魔法使い昇格試験までに、
勉強しておく必要のあることをアカデミーは教えてくれたが、
試験内容については、口外が禁止されているのか、
誰からも情報を得ることができなかったからだ。

ただ、1点だけ、昇格試験については、
難易度にかなりの変動がある、という噂は聞いていた。

実力のないものが合格し、
実力のあるものが落ちる、というケースもよくあったためだ。
えこひいきのようなものもあるという噂もあった。

アルテとモーズは、心配していないようだったが、
トレイにとっては、その試験内容の不透明性が一番心配だった。
もし、自分のときに試験の難易度が非常に高度のものに
なる可能性を否定できなかったのだ。


ただ、運の悪いことに、そのトレイの心配は的中することになる。
次の試験の難易度は過去最高ともいえるものになるのだが、
トレイはまだそのことを知らない。

さらに、運の悪いことが、もう1つあった。

正魔法使い昇格試験の開催地では、
神族の目も行き届かない程に、強力な魔法封じが施されているため、
アプラウスとの契約は、そこでは何の役にも立たないのだが、
これもまた、トレイは後に知ることとなる。



第1章「契約」完了。
第2章「孤島フィルズ」に続く。

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魔法使いの息子:第20話「トレイのジレンマ」

モーズは、2人を自室に招き入れ、暖かい飲み物と
軽くつまめる食べ物を提供した。

「アプラウス様は、礼儀を重視されますが、
 それ以上に、神族に対しての疑念や詮索に対しては
 とても厳しい見方をされます。
 
 トレイ様にとって、真実を見極めたいという思いは
 大切ですが、それをアプラウス様に向けるのは、
 あまり、賢明とはいえませんよ。」

「すいません。迷惑をかけてしまって。」

「アプラウス様との契約については、
 アプラウス様の援助を受ける代わりに、
 100%の自己開示が求められます。
 
 契約者が何かをするわけではありませんが、
 アプラウス様の目に、体の内側、心の内、
 そして、前世からの魂の記憶のすべてをさらすことになります。
 
 そして、契約が続く間、それは維持され、
 いつなんどきとも、アプラウス様がそうされることを
 拒否できない、ということに同意する必要があります。
 
 トレイ様はそれに耐えられますか?」

「同意しなくても、アプラウスは、
 好き勝手に、こちらの精神をのぞけるじゃないか。
 
 今更、そんなのはどうでもいいよ。」

「トレイ様。
 
 アプラウス様が問題にされているのは、
 その態度だと思いますよ。
 
 次は、私もかばえません。」

モーズは、トレイの態度にすこしイライラしていたようだったので、
アルテが口をはさんだ。

「トレイ、神族に対する反発心は、私もエレデ殿もあったのだが、
 契約はできたぞ。」

「アルテは今も反発心はあるの?」

「ないな。
 だいたい、逆らっても意味がない。」

「どうして?」

「私が命と魂をかけるのは、
 正義のためのみ。
 
 私は魔族との戦いで戦友を多く失ってきた。
 そして、その戦いの中で、人間だけで立ち向かうということの
 困難さを思い知らされた。
 
 そんな中、アプラウス様に声をかけていただき、
 魔族にも対抗できる力強い仲間を得ることができたのだ。
 
 だから、私はアプラウス様に忠誠を誓う。
 
 確かに、神族にはよくわからないところが多い。
 探究していくに従い、
 細かいところで目に付くところは確かにあるかもしれない。
 
 しかし、なんとなく気に入らないだとか、
 ひっかかるだとかは、
 私の信義に照らし合わせると、
 つまらない理由にしかならない。
 
 疑いながら剣を振ることは、私にはできない。
 だから、私はアプラウス様を信じる。
 そう決めると、剣は自由に振れるものさ。
 
 トレイ、お前はどうなんだ?
 
 自分を支えてくれる神を疑いながら、
 敵との戦いに集中できるのか?」

「なんとかなるさ。」

「うん?
 じゃあ、一人で戦うのだな。
 
 私はアプラウス様と契約したので、
 一人で戦うことを選択した場合、お前への助力はできない。
 
 まあ、それも一つの生き方だとは思うがな。」

トレイは黙った。

モーズの出してくれた飲み物をじっと見つめて、
どうするか考えた。

「さてと、モーズよ。
 夕一刻までには、少し間があるだろう。
 
 お前も戦いに行くのだから、
 たまには、少し体を鍛えたほうがいいだろう。
 
 来い。軽く調練してやる。」

「えええ!
 お前とか!嘘だろう!」

「つべこべ言わずについてこい。」

アルテがモーズを引きずって、部屋を出て行った。

トレイは、アルテが自分に一人の時間を
与えてくれたのだろうと推測した。


トレイは天井を見上げた。

自分は子供なのだろうか?

ただ、どうも、アプラウスを全面的に信じる気になれないのだ。
何かひっかかる。

しかし、アプラウスを信じて、
契約をしない限りは、自分の前の道が閉ざされるというのも、
トレイにはわかっていた。

アプラウスへの疑念。
それは、父をなぜ助けなかったのか、ということ。

そして、アプラウスからその理由は聞けそうにない。
疑念を持って、アプラウスに質問をすれば、
また、見捨てられるだけなのだ。

アルテは、つまらない理由、といった。

アルテにとっては、諸々の細かいところは、
アプラウスへの疑念といえるまでのものにならなくても、
自分にとって、この疑念は、
つまらない理由、のひとことで片づけることはできないものだった。

しかし、父の仇を討つならば、アプラウスの助力は必須で、
そのためには、その疑念に目をつぶらなければならない。

一時的に疑念をわきに置いておくしかないが、
そうだとしても、アプラウスはすべてを見通す。

契約のときに、トレイの心の中にある疑念は簡単に見抜かれ、
それについての問答を受けることになるだろう。
モーズが答えたような答えを、
自分も用意しておかなければ、
アプラウスは、資格があると認めてくれないだろう。

いずれにせよ、父の仇を打つためには、
疑念は捨てなければならない。


そんなことが頭のなかを延々とぐるぐる廻っていたが、
突如、トレイはある答えにたどり着いた。

その答えを口にしたとき、
アプラウスがどういう反応をするかは、トレイには全くわからなかったが、
拒否する理由はないように思えた。

トレイは目の前のお茶を一気に飲み干した、
再度、契約に向けての自分の決意を固めるように。

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第1章「契約」 (21)
第2章「孤島フィルズ」 (15)
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